土俵際競馬愛好会

相撲と競馬と銭湯と映画を愛する男の隠れ家的日記

"The Wind In The Willows"翻訳記(主に訳詞について)

翻訳についてのお話。

身内じゃないとわからない話とかもありますけどご承知置きを。

あと、例によって殴り書きです。

 

 

今回、ひょんなことから"The Wind in The Willows"の翻訳をさせて頂くことになった。

本当は全部やりたいところだったのだが、作業期間にキャストとして参加していたミュージカルが重なっていたこともあり、3人による分業制を取り、1幕のおよそ9割を担当した。

 

このお話は、日本での無名さからは想像もつかないほどイギリスでは大変有名だそう。

ミュージカルもまぁまぁ普通にヒットしたらしい。

私自身、今年の5月にModel Productionという団体でキャスト(Badger)としてこのミュージカルの世界に身を投じた。その際英語で演じており、地味に日本初演だったので、参考資料となる翻訳の前例もない。言うなれば、私含めた3人が日本語版翻訳のパイオニアなのである。えっへん。

 

今回の翻訳において、もちろんセリフの翻訳もそれなりに苦戦したのだが、最も苦戦したのが歌詞の翻訳であった。そこで今回ここでは、主に歌詞の翻訳についての私の考えとか、今回のディレクターに頂いた話を交えた何かとかを書く。

 

 

The Wind in the Willows (Original London Cast Recording)

The Wind in the Willows (Original London Cast Recording)

  • アーティスト: Original London Cast Of The Wind In The Willows
  • 出版社/メーカー: Masterworks Broadway
  • 発売日: 2017/06/30
  • メディア: MP3 ダウンロード
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10. A Friend is Still a Friend | The Wind In The Willows the Musical - YouTube

サントラを聴いて頂けば、あるいはもう聴いていたならば分かると思うのだが、このミュージカルの曲は、歌詞のメッセージがしっかりしてる。普遍的に見えるけれど、その曲がその場面その瞬間に来る意味が比較的はっきりしている。

加えて、前提としてメロディがマジ良い。

1曲目のSpringとかマジで心惹かれる。

 

そうであるからこそ、(何も今作に限った話ではないが)一度英語で完成されたものをまた別の形にして、それもまた完成させる、という作業は字面ほど容易なことではない。そもそも英語でハマるようになっているメロディであったり、英語で書かれた歌詞の流れ=歌唱者の気持ちの流れに合わせて後ろの音が流れたりしている曲が、言語を変えてなおその形を保持するというようなことは限りなく不可能である。

かと言ってそう開き直って訳してしまっては単なる逐語訳になってしまうというのは自明であるし、作品の質に関わってくる。

翻訳というのは、そういったある種のジレンマの中で最適解を探っていく作業であるのだと、実体験として感じた。ま、所詮は素人なんですけどね!がはは

 

 

さて、今回は私的な傑作であり、元のミュージカルでも中々重要だった曲、そしてなにより私が歌っていた A Friend is Still a Friend を例にとって翻訳の記録を残す。

 

まず英語詞を。拙訳を付してある。文法的な正しさは保証しないので、違和感あるところは各自訳すなりしてください。あくまで雰囲気訳です。

 

FUNNY HOW IT HAPPENS

楽しいものだよ、何が起こったとしても

ONE OF LIFE'S OLD TRICK

言い尽くされたことのひとつだけれど

FOLKS ARE THROWN TOGETHER

人々が一緒(の場所)に放り込まれると

SOMEHOW SOMETHING CLICKS

どういうわけか何かが彼らを結びつける

 

 

 

COULD IT BE SOME GREATER SCHEME

とても大きな規模の話になるけれど

THE UNIVERSE INTENDS

宇宙は、なっているんだよ

AS WHAT WERE ONCE TWO STRANGER

かつて他人同士だったふたりも

BECOME TWO LIFE LONG FRIENDS

生涯の友達になるように

 


A POINT OF VIEW IS AIRED

意見がぶつかる事もある

A JOKE OR TWO IS SHARED

でも冗談のひとつふたつを分かち合う事だってある

YOU HAVE TO BE PREPARED

覚えておきなさい

A FRIEND IS STILL A FRIEND

いつの日も友達は友達なのだ、と

 


YOUR PATIENCE MAY BE TRIED

辛抱強さが問われるだろう

YOU TAKE IT IN YOUR STRIED

(だが)お前の歩幅でおやりなさい

AND RALLY TO THEIR SIDE

①そして彼らの側にまた集まった時

(判るだろう)

②そして彼らの側に寄り添うんだ

A FRIEND IS STILL A FRIEND

①(いつの日も)友達は、友達だと

②友達はいつの日も友達だから

 


AND IF HE DISAPPOINTS YOU

もし彼がお前を失望させたり

OR GOES OUT ON A LIMB

あるいは危険を冒している時

YOU KNOW THAT A PART OF YOU

わかっているだろうお前の中には

WILL STILL HAVE TIME FOR HIM

まだ彼のための時間があるということを

 


YOU HELP HIM TO PULL THROUGH

彼が困難を乗り越える手助けをしておやりなさい

YOU KNOW ONE THING IS TRUE

もうお前もわかっているだろう

HE'D DO THE SAME FOR YOU

彼もお前に同じことをするだろうって事を

A FRIEND IS STILL A FRIEND

(どんなにいがみ合おうと)

友達は、友達なのだよ

 

 

 

【RAT】

IF HE HAS A WEAKNESS

彼が弱さや、

HABITS THAT ARE HIS

そういう気質を持っていたとして

ARE THEY NOT FOIBLES

それは弱点じゃなくって

THAT MAKE HIM WHO HE IS ?

彼を彼たらしめるものだ、ということ?

 

 

 

【BADGER】

WHICH OF US IS QUALIFIED

FOR CASTING FIRST STONE ?

一体誰に真っ先に相手を非難する資格があるだろう?

For NONE OF US ARE BLAMELESS

欠点の無いものなんていないから

 


【B・R・M】

WE HAVE FAULTS OF OUR OWN

みんな(何か)欠点を抱えてる

 

 

 

【BADGER】

SOMETIMES WE ASK A LOT

たくさん尋ねる時もある

【MOLE】

SOMETIMES WE LOSE THE PLOT

思ったのと違う方に行く時もある

【RAT】

WE KNOW NO MATTER WHAT

それでも、何があっても

【B・R・M】

A FRIEND IS STILL A FRIEND

友達はいつも友達

 

 

 

【BADGER】

AND IF THE SKIES CAVE IN

空が落ちてこようとも

【RAT】

WE TAKE IT ON THE CHIN

受け入れてみせる(受け止めてみせる)

【MOLE】

BE THERE THROUGH THICK AND THIN

どんな困難もくぐり抜けてそこに辿り着いてみせる

【B・R・M】

A FRIEND IS STILL A FRIEND

友達はいつの日も友達だもの

 

 

 

AND IF WE HAVE A DIFFERENCE

もしも違いがあったとしても

WE DON'T GIVE UP THE GHOST

諦めない

WHAT WE HAVE IN COMMON

誰もが抱えているものこそが

IS THE PART WHICH MATTERS MOST

いちばん大事なもの

 

 

 

AND AT OUR JOURNEY'S END

私達の旅が終わりを迎えた時

I HOPE ALL RIFTS CAN MEND

互いに分かり合えているといい

(全てのヒビが埋められるといいながおそらく直訳)

ON LOVE YOU CAN DEPEND

それも愛する気持ち次第さ

A FRIEND IS STILL A FRIEND

友達はずっと友達

 


【BADGER】

ON LOVE YOU CAN DEPEND

愛するその気持ち次第さ

 


【B・R・M】

A FRIEND IS STILL A FRIEND

友達はずっと友達

 

 

友情について歌った歌ですね。

以下は公式解釈でないので、そういう考え方もあるよね的な感じで流してくれていいんですが、この歌、バジャーの過去に起因した歌だと思うんですよね。なにか大切な友達と揉め事を起こして、それからずっと会えなくなってしまった。だからこそ、心の中で友達だと思っているのなら、その友達を愛しなさい。誰にでも間違いはある。それも含めて、友達を愛しなさい。

そういうバジャーの想いが乗っているように思うのです。以上、非公式解釈でした。

 

さて、お次は第1翻訳案。

これは本番で使用されたものではなく、私がひとり翻訳して提出したものです。

 

アナグマ どんなことも 楽しむのさ

     大抵のことは 些細なこと

     広い宇宙で 互いが出会う

     そんな奇跡と 比べたなら

     

     喧嘩する日も 笑いあう日も

     あるさ ふたり 友達なら

     険しい道さ でも大丈夫

     まだ ふたりが 友達なら

 

    気づいているんだろう? 心の奥

     彼のための場所 まだあること

     

     大事なことは 支えあうこと

     互いに手を 取りあうこと

 

ねずみ    彼が抱える 弱さでさえ

     彼をつくる 一部ってこと?

 

アナグマ いったい誰に責められるだろう

     

もぐら・ねずみ・アナグマ 

                  みんなそれぞれ 弱さがある

 

アナグマ たくさん頼る日も

もぐら  背を向けあう日も

ねずみ  なにがあっても

3びき  繋がっている

 

アナグマ 空が落ちようとも

ねずみ  受け止められるさ

もぐら  どんな困難も

3びき       友達となら

 

   

          大切なものは 心の奥

   誰もがきっと 持っているもの

   

   友達なら 分かり合えるさ

   胸に秘めた 愛一つで

  

   胸に秘めた

   愛ひとつで

 

振り返りは最終版と併せて書きますので、完成版を先に。

完成版は演出家の先生の修正を受けたものです。

 

考えてごらん 不思議だろう

昔からそう 変わらない

小さいけれど 奇跡のよう

互いが出会い 共に歩く

 

喧嘩する日も 笑いあう日も

あるさ ふたり 友達なら

険しい道さ でも大丈夫

まだ ふたりが 友達なら

 

気づいているんだろう? 心の奥

彼のための場所 まだあること

     

大事なことは 支えあうこと

互いに手を 取りあうこと

 

ねずみ    彼が抱える 弱さでさえ

     彼をつくる 一部ってこと?

 

アナグマ いったい誰に責められるだろう

     

もぐら・ねずみ・アナグマ 

                  みんなそれぞれ 弱さがある

 

アナグマ たくさん頼る日も

もぐら  背を向けあう日も

ねずみ  なにがあっても

3びき  繋がっている

 

アナグマ 空が落ちようとも

ねずみ  受け止められるさ

もぐら  どんな困難も

3びき       友達なら

 

   大切なものは 心の奥

   誰もがきっと 持っているもの

   

   友達なら 分かり合えるさ

   胸に秘めた 愛一つで

  

   胸に秘めた

   愛ひとつで
 

 

コピペバレバレですが、ナナメ太字が変更箇所です。

つまるところ、コアな部分は私の案でパスしたんですよね。それが結構嬉しかった。

 

さきほど原曲のところでも触れたんですが、この曲って、砕いて言うとたとえ嫌な奴って思っててもその人への愛があれば友達だよ、愛があるならその人のそういう嫌なところも受け入れられるよ、みたいな曲です。

感覚的にはビリージョエルじゃないですけど、I love you just the way you are〜って事なんですよね。

じゃあその愛って何だ?という問いを、稽古中に先生から与えられたのですが、口からぽろっと出た言葉だったけど「笑顔で共にいた記憶」がそれなんじゃないかな、という結論に至りました。

楽しかった時間を共に生きた仲は、そう容易く断ち切られはしない。一時の気の迷いで縁を切るような事はあってはならない。

バジャーはそういう事が言いたかったのだと思います。

 

ビリージョエルついでに書いておくんですが、このA Friend is Still A Friend、生意気にも私が邦題をつけていて「友達はずっと友達」という題なんですけど、考案段階でビリージョエルの曲が思い浮かんだので「素顔のままの君で」みたいなよくわからん邦題案があったんですよね。はい、無駄話でした。

 

 

 

以下、自分の愚痴やら自慢やら、筆者の汚い部分が滲み出ている文章が続きます。警告するぞ〜。

 

 

 

 

まず変更された部分。

この変更から読み取れるのは、先生は友情というものの不変さを描きたかったのだろうと推察する。この改変版の訳も割と好きなんだけれど、やっぱり私は私の言葉が好きなので、最初変更された時はムッとした。生意気だけど。

 

私がフォーカスしたのは友情というか、その萌芽の尊さ、大きさだった。この方針が違うよ、と先生が言いたいわけではないのはわかるけれど、、、という気持ち。

ただ、バジャーというキャラクターはモールとラットに比べて年長なので、キャラクター的に諭さなきゃいけないのも確かで、まだまだ自分は未熟だなということを痛感した。でも諭すところ以外は自分のが好き。

「昔からそう変わらない」というフレーズ、個人的にはボケると思ってて、意味的に浮いてしまいそうな感じを受けた。歌ったけどね。

大抵のことは 些細なこと

広い宇宙で 互いが出会う

そんな奇跡と 比べたなら 

のこの対比、マジでいけてると思うんだけどなぁ。。。とは言えど素人だから、勉強しないとな、というところに帰着する。勉強って何だ?という話だけれど。

 

 

 

あと、

小さいけれど 奇跡のよう

互いが出会い 共に歩く

のところ。これ、個人的にはすごいモドカシイ。

というのも、私は桑田佳祐さんをはじめとしたJpopの詞から詞の世界に足を踏み入れた人間だからなのか、なにかと倒置させたがるというか、倒置が好きなんですよね。

そういう嗜好を抜きにしても、奇跡のようだ、ということを強調したいところ(だと思ってる)なので、

互いが出会い 共に歩く→小さいけれど 奇跡のよう

の方が伝わりやすい(と思う)

音数が今回この順番トレードをしてもハマるので、私は本番この好きな方の順で歌った。

先生ごめんな。

 

気づいたら6000字を超えてた。

最後に、私が自信ありありのマシマシで書いた詞について少し語って閉じる。

 

          大切なものは 心の奥

   誰もがきっと 持っているもの

   

   友達なら 分かり合えるさ

   胸に秘めた 愛一つで

  

   胸に秘めた

   愛ひとつで

 

『気づいているんだろう?

心の奥 彼のための場所 まだあること』

と同じメロディから始まるこの一節。

何としても韻を踏みたかった。

場所(Sho)ときっと(To)とか、そういうチープな感じでいいから、似てるけれどどこか違う雰囲気を出したかった。その結果今回のような詞になった。

 

心の奥というフレーズを二回出す事については賛否あると思うけれど、心の奥に大切なものがあるということ、RATにとっての「彼=Toadのための場所」のようなものを誰もがきっと持っていることを表現する為に、あえて二回出した。まあここまで来ると流石に自己満の域だけれど、得てして創作物ってそういうものだと思っている。

 

あと最後の

胸に秘めた 愛一つで

のフレーズ

 

これは今回手がけた中でも1,2を争う個人的ベスト訳。

原詞は

On love you can depend 

a friend is still a friend

 

良くない?

これ、家から最寄り駅まで歩いてる時に浮かんだもので、やっぱアイデアって降ってくるもんだなとしみじみ思った。

心の奥に隠されて(隠れているように見えて)いる愛をキーとして、友達は分かり合える。

だから、「秘めた」

意味も通るし、耳触りと口触りがとても良かった。

2回目のバジャーソロ「胸に秘めた」も、個人的解釈に照らして筋通るからね。

 

いやー、日本上演の時は是非私めの訳詞をいかがでしょうか、プロの方!

 

 

え??

思い上がるなって??

いいじゃないか、ちょっとくらい。

人が前に進むためには驕りだって必要でしょ。

 

 

 

なんて、こんな感じで楽しく訳詞はじめ翻訳をさせて頂いてました。

誰かまた翻訳させてくれるなんて事があったら是非お声かけください。出来は別として、やる気はありますので。

 

 

さて、こんなところまで読んでくれた人がいるとはとても思えないが、もしいた時のために謝意を記しておく。こんな文を読んでくれてありがとう。

 

高田島についてもなにか書き残しておきたいので、またなんか書こ。